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陶芸歴30年、岸和田と和歌山で陶芸教室を主宰してます。うつわ作りの話いっぱいと、和歌山の暮らし。笑うように生きたい。


by 中出聖子

陶芸教室では覚えなくてもいい技術があります

ひとことで陶芸と言っても、幅は広い。

もう10年ぐらい前に、私の陶芸教室に伝統工芸展に入選されてるような方が入会されて驚いたことがあります。
それも私が個人でやってる教室ではなくて、市民センターのカルチャー教室でしたので。
何故?
その方は、練り上げという技法で素晴らしい作品を作られている方でしたが、
菊練りも(土練りの一種で一番ポピュラーな練り方)、電動ろくろもできないので教えてくださいと入会されたのでした。
実は、その方は練り上げの第一人者で有名な先生に習われたのが最初で、ずっとその技術で作品を作り続けておられました。
練り上げの場合、土練りも全く違う方法でやるそうです。
作品も電動ろくろを使わない方法で作られていました。
結局、伝統工芸展レベルの練り上げの技法がおいそれと習得できないのと同じように、
土練りやろくろ技術もプロの作品を作るには、それなりの時間と修練が必要ですから、
「今まで積み重ねたものを極めます」と言ってお辞めになられましたが。
(その方のために、再度言いますが、練り上げの素晴らしい作品を作られる方で、ほかの技術は必要なかったようです)


美大の陶芸科の教授でも、あまりろくろを引けない(引かない)方もいらっしゃると聞いたことがあります。
(この話は、ずいぶん昔の話だそうで、今は知らないのですが)
陶磁器の作品は、ろくろを使わないことも多々あります。

結局、何を作るのか、それ次第。
そのために、どんな技術が必要か、ということに尽きます。

ひととおり、基礎を習いたい?
無駄です。
学生なら。
それでも。
音楽をやりたいから、ピアノもヴァイオリンもトランペットも一通りやってから、
どの楽器にするか決めますって言ってるのと近いかも。
(ちょっと言い過ぎかな笑)

あれ、わかりやすく、伝えようと思って、どんどん話それてますね、あかん笑

窯元さんの見学をしたり、職人さんが作るところを見たり、
陶芸の本にも、そういう人の技術をマスターするためのコツ!みたいなのがあふれているせいなのか??
ちゃんとそういうことできなきゃいけない、みたいに思っている人たくさんいるんじゃないかな。

ちなみに、そういう技術というのは、
窯元さんや、同じものを大量に作らなければいけない職人さんの技術と思ってもらえると話がわかりやすいです。

要するに、陶芸教室では、
自分の好きなもの、作りたいもの、自分の生活で使うものを作るというのが大半だと思うのです。

いやいや、いずれ陶芸家になりたいんだ、ということであっても、
私もそうですが、個人でやるとしたら普通は『多品種小ロット』です。
たくさんの種類のものを少しずつ、です。
同じ形の湯呑みを1000個も2000個も作らなきゃ、なんてことはまずありません。

ということは、それに必要な技術を磨けばいいのであって、
職人さんの同じものを正確に作る技術(いや、ほんとにこれは大変なんです)は
必要ないんです。

でも、それにとらわれてることって、多いなと思って。
とくに電動ろくろの技術。

まずは、バイ引きをやめましょう。(大きな塊からろくろをひくこと)
1個引き。
1個ずつ、グラムを測って作ります。
亀板を使いましょう。

ばい引きをやめるだけで、覚えなくていい技術がいくつもあります。
まあ、土練り(菊練り)はできた方がいいとは思います。
でも、5キロを一度に練るのではなくて、3キロずつとか、そういうことで足りますので
菊練りのハードルも少し下がりますね。

5キロの土の土殺しもできなくても大丈夫。
1キロの土殺しができれば、大抵のものは作れます。
大物を作りたいですか?大丈夫です。
小物を作ってれば、そのうち、5キロの土殺しだってできるようになります。
でも、最初にそれを練習すれば、週に一度3時間くらいの教室では何か月もかかりますよ、きっと。
全然、作品ができないのは、つまらないですよね。
ろくろは、中心を出さなきゃ、ちゃんとできないようになってますから。

玉とりもできなくて大丈夫。1個ずつ作るのですから。
それに、1個ずつグラムを測るので、同じものを作るのでも玉とりより正確です。

糸切りもできなくても大丈夫。
1個出来たら、あわてず騒がず、手びねりと同様に切糸で切り離せばいいのですから。
もちろん、しっぴきなんていりません。

1個ずつ丸い亀板を使えば、すぐに作品を移さなくていいので、底を細くしたりせずに済むし、
そのために、少し底上げしてなくてもいいし。
移す時に失敗して、作品がゆがんだりもありません。

何度も土殺しをするバイ引きは、慣れないとへたりやすいのですが、それもありません。


削りに関しても・・・

シッタはいりません。
徳利や、口縁が特殊なものなどを除いて、
たいていのものは、伏せて土で止めて削れます。
シッタは、使うのにコツがいるし、練習しなければ身に付きません。
それに、作品に合わせて、大きさ高さを色々取り揃えておかないといけませんし。
逆に、湯呑を10個引いたとして、形がそろってないとシッタを代えないといけないのです。
シッタってセットするのが面倒なんですよね。その時間で3個ぐらい削れますから。
大量に同じものを作るとき以外、かえって面倒なんです。

手刀で、トントンとして中心を出せるようになるのも、かなり時間がかかります。
それなら、簡単に確実に中心を出せる方法でやりましょう。

効率よく短い時間でたくさん正確に作る技術は、長い修業期間の間に培われた技術です。
それは誇るべき素晴らしい技術です。

そして、陶芸教室でそれができたら、かっこいい(笑)
他の方達の称賛の的です。
けれど、コスパ悪すぎです。必要ない。
多品種小ロットのものを作る技術だけを磨いて、上達しましょう。
楽しんで、いい作品を作りましょう。

陶芸教室で作る作品の醍醐味は、
手作り感にあると思います。
(もっさり感をイメージしないでね笑)
世界にひとつしかない、自分が作った作品。
この時代にめちゃくちゃ貴重です。

職人さんの常識と陶芸教室の常識は一致しません。
目的が違うもの。

陶芸本に惑わされないようにしましょう。
(全部を否定してるわけではありませんので、それだけは)


「当たり前」って思ってること、
よく考えると「違うよね」っていう結論にたどり着く。
自分の頭で考えることをさぼらないようにしなきゃ!

あー、また長くなってしまった。
読んでくれた人、ありがとうございます。
陶芸を習っている人限定のお話でした。


ちなみに亀板で作る1個引き、こんな感じ。
今日、引いた茶碗たちです。

陶芸教室では覚えなくてもいい技術があります_c0337724_22173370.jpg

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岸和田教室KIKI-clubをやっております。
和歌山でも、教室、体験、小さなギャラリーをしています。
ご興味のある方はお問い合わせください。






by kiyoi-kobo | 2019-01-23 22:18 | 陶芸